夫目線の立ち会い出産体験記

娘が生まれて僕は父親になった。

無事生まれてきてくれた娘と、頑張って産んでくれた妻に感謝したい。僕自身は特に役に立てていない。

今回の出産では、僕はどちらでもよかったが、妻が立会い出産を希望していた。それならと、僕も出産の現場に立ち会わせてもらった。陣痛が始まって、生まれて、一息つくまでの、12時間ぐらいを一緒に過ごしたことになる。

すでに破水して入院していた妻から、陣痛が来たと連絡を受けたのが夜中の2時ごろ。落ち着いてきていいよ、と言われたものの、苦しそうな妻の声を聞くと焦ってしまう。

焦ると、人間は変な行動をする。メガネをかけようとしたら、すでにメガネをかけていた、とか、ファミリーマートでうろうろしている時に2回棚にぶつかる、とか、やはり冷静ではなかった。

なんとか病院にたどり着いたら、妻は陣痛に苦しんでいた。最初のうちは子宮口が開くまで、ひたすら痛みに耐えないといけない。力んではダメで、呼吸で痛みを逃すらしい。

妊娠中から妻は、痛みを逃すための呼吸法の練習をしていた。ロシアの軍隊格闘技システマにもそんな技術があるな…などと思っていた。

ロシアの軍隊格闘技システマを習得した妻にとって、陣痛など問題にならないはずだった。が、ふつうに苦しそうだった。「システマを思い出せ!システマ!」と言いたかったが、声をあげて苦しんでいる人間に、そんな声はかけられない。僕は黙っていた。

陣痛の痛みは、腰をさすると痛みが和らぐとか、テニスボールを腰に押し当てると和らぐとか、一般的には言われている。僕も以前から、妻の腰をさする練習をして備えていた。でもいざ本番となると、妻は嫌がった。触られたくないと感じたらしい。そういうのも珍しいことではなく、そういう人もいるらしい。

ただ、看護師さんたちは「さすってあげてください」と言うし、妻はさするなと言う。さすってない僕は、何の力にもなれないことや、看護師さんたちに責められているような気もしてちょっと申し訳なかった。妻は、「居てくれるだけでいい」と言ってくれたので、少しほっとした。

5時間ほど過ぎ、何も戦力になれないまま朝になり、朝食が出てきた。結構豪華で、サーモンとクリームチーズを挟んだベーグルが出てきた。妻は食べられる状態じゃないので、僕が代わりに食べることにした。「あーっ!」と痛みで叫んでいる妻を見ながら、むしゃむしゃと無言でベーグルを食べている僕。おいしい。客観的に見ると、ちょっと不思議な光景だな、と少し笑いそうになった。

そうこうしているうちに、十分子宮口が開いたらしく、ついに力を入れて産むことになった。分娩台上で産む体勢になった妻。辛そうにずっとうめいていたが、いざいきむ、その時は、戦士の表情になっていた。覚悟が決まっているというか、力強い、いい表情だった。

陣痛がくるのにあわせて2、3回いきみ、次のサイクルに向けて休憩するのを繰り返していた。戦士のようにいきみ、システマの呼吸で回復をはかり、その合間に痛がる、というのを1時間以上繰り返していた。

大変で辛そうだった。フルスクワット10回以上に辛いものは、この世にそうそうはないと思っていたけど、これはまさにそれだなと思った。出血もしてるし。

頭がはさまった状態でしばらく経つと、人がわらわらと増えてきた。そろそろ終わりが近づいているらしい。慌ててRICOH THETA Vを取り出して、360度動画の撮影を開始する僕。

そして、陣痛のタイミングで妻がいきむと、ついに頭が抜けた。そこからは一瞬で、一気に体全体が抜け、ドゥルン!とわが子は出てきた。わが子は見えない位置でパパッと処置をされて、すぐに妻のお腹の上に置かれた。

初めて見る我が子は、すぐに可愛いと思えた。かわいいというか、愛おしい、というか。妻も「可愛い」と言って泣いていた。

周囲の男性の子育て体験談を聞くと、「最初は可愛いと思えなかった」とか、「猿のようだった」「エイリアンのようだった」と言っていた。僕の場合はそんなことはなく、愛おしい感覚がほんのりと、すぐにやってきた。立ち会ったかどうかの違いだろうか。

ちょっと冷めた話をすると、子どもへの愛情には、IKEA効果が寄与していると言われる。単に完成形の家具を購入するのと比べると、もし同じものだったとしても、自分で手を掛けて組み立てることで、より強い執着をその家具に感じるらしい。子供も同じで、手間をかけることで愛を感じる部分がある。詳しくはダン・アリエリーの「予想通りに不合理」を参照いただきたい。

僕は立会い出産で10時間以上一緒に時間を過ごしたので、多少IKEA効果の恩恵を得ていたのかもしれない(ベーグルを食べながらではあったけれど)。これで立ち会ってなかったら、どう感じていたのだろう。

処置をした後、しばらく僕ら3人は一緒に時間を過ごした。抱っこしたり、触って遊んだりして時間を過ごした。すやすやと寝ていて、すでに凄くかわいらしい。いい時間だった。

その後、お昼ご飯の時間になった。結構しっかりした中華料理だった。個人のクリニックでは、こういうところで差別化しているらしい。僕も、妻が食べきれなかった分をもらった。おいしい。

その後看護師さんが、妻に「ご飯、食べられましたか?」と質問した。僕は割り込んで「はい、おいしかったです」と答えてしまった。これは恥ずかしい。体調が悪く食べられないことを心配して質問しているのに、夫が食べた、しかも感想付きで報告してきた、という状況だ。看護師さんも、「いや、お前が食べたんかい!感想もいらんわい!」とかツッコんでくれたら僕も救われたのに。

ともかく、素晴らしい体験をさせてもらった。もともと、特に立ち会いたい、という強い思いは僕にはなかったけれど、立ち会って本当に良かったと思う。

出産までの半日に、妻と同じ時間を過ごし、多少なりとも苦しみを分かち合えたのは、今後の人生にも少しは影響するんじゃないかと思う。

以上です。

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予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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