あれは、僕が小学4年生の頃の、寒い冬のことだった。
朝起きて、服を着替えて、僕は階段を下りた。1階の洗面所に向かう。
寒さからだろうか。今日は一段と冷える朝だからか。なんとなくいつもと違う感覚を感じながら歩く。肩が重い。洗面所に着き、寝惚け眼で顔を洗おうと、蛇口をひねる。
かじかむ指先で、流れる水の温度を測る。3度、4度と、水の感触を確かめ、流れる水の温度が上昇したのを確認する。手を軽く洗い、顔を洗おうと、僕は身をかがめて、手のひらに顔を近づける。その時だった。
何かが、僕の後頭部に触れた。
何かが、やわらかに、そっと僕の後頭部を、一定の力で抑えるのを感じた。
おかしい。ここに人がいるはずはない。
足音もしていないし、誰の気配も感じなかった。それなのに、何かが、顔を洗おうとかがんでいる僕の後頭部を、そっと抑えている。柔らかく触れているのだ。
僕は顔を洗う態勢のまま、動けなかった。何かが僕の後ろにいる気がする。しばらく僕はまった。それでも、”何か”は、ずっと僕の後頭部に触れている。僕は振り返ることができなかった。恐怖でうまく考えることができなかった。
僕はずっと顔を洗い続けた。
それでも”何か”は、その間ずっと、僕の後頭部に、そっと触れ続けていた。ぴったりと、触れたままで、離れようとしない。やわらかく、包み込むように。
何秒なのか、何十秒なのか、何分なのか、実際にどれくらいの時間が経ったのかは、よく分からないが、このままずっと顔を洗っているわけには行かない。どこかで決断する必要があった。僕は、何度か深く呼吸をした。僕の頭を触る”何か”が、何なのか、怖くても向き合うしかなかった。
僕は意を決して振り返った。素早く後ろを振り向くと、そこには何もなかった。
さっきまで僕の頭を押さえていたものは、僕の背後にはなかった。そこには誰もいなかった。ただ、数秒考えて、僕はハッとして気づいた。
そういえば今日は寒いから、パーカーを着ていたんだった。
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